アレクサンドリアは、街ではなく物語の器
アレクサンドリアは、序盤に通り過ぎる街ではない。FF9という物語そのものが入っている、器のような場所。
初見では、ただのスタート地点に見える。でも、遊び終えてから振り返ると、この国が物語の重心をずっと握っていたことに気づく。
霧の大陸の三大王国のひとつ
アレクサンドリア王国は、霧の大陸の三大王国のひとつ。
物語序盤は女王ブラネが治めていて、中盤以降はブラネの死により、ヒロインのガーネットが統治することになる。リンドブルム公国、そしてブルメシアと並ぶ、大陸の大国のひとつ。
悲恋劇で始まり、悲恋劇で終わる
そして、この物語の構造を象徴するのがこれ。
物語最序盤で、劇団タンタラスにより公演されるのが、君の小鳥になりたいという悲恋劇。アレクサンドリアでは大人気の演目。
そして、この劇はエンディングでも公演される。だからFF9は、君の小鳥になりたいで開幕し、終幕する物語といっても過言ではない。
その舞台が、どちらもアレクサンドリア。始まりと終わりを、同じ国が挟んでいる。
滝の上の高原に立つ城
アレクサンドリア城は、霧の大陸の北東部、滝の上の高原にある城。
Disc1から2の元凶であるブラネ女王が統治する国。城内には多くのエリアがあり、入手アイテムやサブイベントもある。だから、目的の場所へ行く前に、城内を隅々まで探索しておくといい。この、探索しておくといい、という一言が、後で効いてくる。
この国は、五百年の因縁を抱えている
アレクサンドリアを、ただの美しい王国だと思って通り過ぎると、物語の核を見落とす。この国は、五百年前の罪を抱えている。
召喚士一族とアレクサンダー
アレクサンドリアには、召喚獣アレクサンダーとの深い因縁がある。
かつて、召喚士の一族が、この地に大惨事をもたらした。国名のアレクサンドリアと、召喚獣アレクサンダー。この二つの名前が似ているのは、偶然ではない。国そのものが、召喚獣と結びついている。
流れ着いた少女が、王女になった
物語の根っこにあるのが、一人の少女の漂流。
ガイアには、マダイン・サリという召喚士たちの暮らす村があった。ガーランドが、この村をテラへの脅威と捉えて、インビンシブルで出向き、崩壊させる。
このとき、小舟で村を脱出した少女が、アレクサンドリア王国に流れ着き、王妃ブラネに拾われて、ガーネット姫として育つ。
つまり、王女ガーネットは、本物の王女ではない。召喚士一族の生き残りの末裔だった。
ガーネットという名の秘密
ガーネットは、アレクサンドリア王国の第17代王女。長く艶のある黒髪をまとう16歳。
その絶世の美から、王国始まって以来の美姫と呼ばれる次期王位継承者。でも、その出生には秘密がある。ブラネには本物の娘がいて、すでに死別している。ガーネットは、その代わりに拾われた、召喚士の血を引く少女。
五百年前に大惨事をもたらした一族の末裔が、その国の王女として育つ。この皮肉な巡り合わせが、物語を動かしていく。
優しい母が、怪物になっていく
アレクサンドリアの悲劇の中心にいるのが、女王ブラネ。彼女の変貌が、物語序盤の推進力になる。
先王の死と、クジャの接触
ブラネのフルネームは、ブラネ・ラザ・アレクサンドロス16世。アレクサンドリア第16代女王で、ガーネットの育ての母。年齢は39歳。
元々は、心優しい性格の持ち主だった。夫である国王が存命の頃は、善政を敷く賢君で、ガーネットからも優しいお母さまと慕われていた。
ところが、最愛の夫を亡くし、傷心のところを霧とクジャに付け込まれ、次第に精神に変調をきたしていく。心に秘めていた強大な欲望が、暴発する。
娘を小娘と呼びはじめる
変貌したブラネは、娘のガーネットを、娘とも思わなくなる。小娘と呼び回るようになる。
そして、召喚獣の力を得るため、ガーネットを生死問わず捕まえようとする。黒魔道士軍団と召喚魔法を駆使して、周辺国のブルメシア、クレイラ、リンドブルムを殲滅し、霧の大陸全土を制圧していく。
優しかった母が、大陸を戦火に包む怪物になる。娘のガーネットは、この母の異変に耐えられず、城を抜け出す決意をする。
最期に、母へ戻った
物語の終盤、ブラネはクジャをも倒そうとバハムートを召喚する。しかし、逆にコントロール権を奪われ、返り討ちにあう。竜王の吐息をまともに浴びて、致命傷を負う。
霧の毒気が抜け、正気に戻ったブラネは、絶望と悔悟に打ちひしがれる。瀕死の状態で海岸に打ち上げられた彼女のもとに、ガーネットが駆けつける。
散々な仕打ちをしてきた相手なのに、自分のために泣く娘に、ブラネは最後まで突き放すことをしなかった。私は思うとおりに生きた、だからお前もお前の思うとおりに生きなさい。そう伝えて、息を引き取る。
死後、バラ園の中に白亜の墓が立てられる。民が、彼女の好きだった花で花輪を作る。あれだけ大陸を戦火に包んだ女王が、民からは最後まで敬愛されていた。この立体的な悲劇が、アレクサンドリアという国の陰影を深くしている。
城で油断すると、宝を取り逃す
物語の話ばかりしてきたけれど、アレクサンドリア城は攻略上も油断できない。ここは、取り逃すと二度と手に入らないものが多い。
時期を逃すと入れない場所だらけ
アレクサンドリア城は、Disc3で飛空艇を入手した後は、自由に出入りできるようになる。
しかし、その時期には城の様相は激変していて、城内はごく一部のエリアしか入れなくなる。だから、アイテムなどの回収は早めに済ませておく必要がある。
後で戻ればいい、が通用しない。入れるうちに、隅々まで探索しておく。これが鉄則。
ムーンストーンは4個しかない
象徴的なのが、序盤のチャンバラというミニゲーム。
スタイナー操作時に、玉座のブラネに話しかけると、チャンバラの結果に応じてアイテムがもらえる。満足した観客の人数が100人なら、貴重なムーンストーンを入手できる。
このムーンストーンは、ゲーム中で4個しか入手できない個数限定アイテム。実績の条件にもなっている。100人を満足させないと、ここでは手に入らない。
カードもミニゲームも、一度きり
他にも、時限式の要素が散らばっている。
ビビを操作中に尖塔の上でロープを引くと、シヴァとラムウのカードが手に入る。ガーネット即位時には、城下町でかけっこというミニゲームが遊べて、ここでしか手に入らないアスリート・クイーンというアイテムがある。図書室の本棚を調べると戦えるダンタリアンも、時期を逃すと二度と戦えない。
どれも、物語を進めると入手不可になる。アレクサンドリアは、探索を怠ると静かに宝を奪っていく街。優しい顔をして、けっこう厳しい。
チャンバラで100人を満足させた夜
ボタン入力に、指が追いつかない
自分がムーンストーンを取りに行ったときの話。
チャンバラは、劇の中でジタンとレア王が斬り合う演目。表示されるボタンを、タイミングよく入力していく。正しく押した回数が多いほど、満足した観客の人数が増える。
1つ、2つ、と押す。順調。中盤で、入力が速くなる。指が追いつかない。押し間違える。観客の人数が、思ったより伸びない。
100人に届かない。もう一回。
早さまで見られていた
何度かやって、気づいた。PS版では、ボタンを押す早さもチェックされている。
ただ正しいボタンを押すだけでは足りない。速く、正確に。この二つを同時に満たさないと、100人に届かない。
指先に汗がにじんできた頃、ようやく100人を満足させた。ムーンストーンが手に入った瞬間、椅子の背に体を預けた。4個しかない、と知っていたから、この1個の重みが違った。
たかがミニゲーム。でも、限定4個という数字が、あの数分を本気にさせた。
城下町が、目の前で壊滅する
アレクサンドリアの物語は、悲劇へと加速していく。そのクライマックスが、城下町の壊滅。
女王即位、そして襲撃
母ブラネの死によって、ガーネットは女王に即位する。ダガーという偽名を捨てて、アレクサンドリア第17代女王となる。
しかし、平穏は訪れない。クジャの襲撃から国を守るため、ガーネットはエーコと二人でアレクサンダーを召喚してしまう。
アレクサンダーと、竜王の吐息
究極の召喚獣アレクサンダーを手に入れようとするクジャ。そして、その動きを察知していたガーランド。
ガーランドは、インビンシブルを奪ってアレクサンダーを自壊させ、アレクサンドリアに壊滅的なダメージを与える。
城下町が、崩れていく。ガーネットが女王になったばかりの、第二の故郷が。守ろうとした召喚獣が、逆に国を滅ぼす引き金になる。この救いのなさが、FF9屈指の悲劇として語り継がれている。
言葉を失うヒロイン
母ブラネの死。女王即位。そして即位早々の、故郷アレクサンドリア王国の崩壊。
あまりに悲しく耐え難い事態が続いたため、ガーネットは言葉を失ってしまう。声が出なくなる。
この症状は戦闘にも反映され、コマンド入力後にダガーは集中できないと表示され、行動が失敗することもある。ヒロインの心の傷が、ゲームシステムにまで反映されている。アレクサンドリアで起きた悲劇の重さを、プレイヤーは操作を通して体感することになる。
悲恋劇が、すべてを包んでいる
そして、アレクサンドリアという国を語るうえで、忘れてはいけないのが、あの劇。
君の小鳥になりたい
劇作家エイヴォン卿の作品、君の小鳥になりたい。アレクサンドリアで大人気の悲恋劇。
ガーネットは、この劇が大好きで、劇中のセリフをそらで言えるほど。父である先王と、母ブラネと一緒に、この劇を鑑賞した思い出がある。
かつてブラネが、この劇に感激して咆哮を上げるシーンがある。初見では怪獣のような叫びに驚くけれど、あれは亡き夫とガーネットと一緒に劇を観た日々を思い出して、感涙している姿。まだ、優しい母だった頃の名残。
開幕の公演、終幕の公演
FF9は、この悲恋劇の公演で幕を開ける。劇団タンタラスがアレクサンドリアを訪れ、君の小鳥になりたいを上演する。その裏で、ガーネットの誘拐が進行する。
そして、すべてが終わった後のエンディングでも、同じ劇が公演される。
始まりと終わりを、同じ悲恋劇が包んでいる。そして、その舞台はどちらもアレクサンドリア。この円環構造こそが、アレクサンドリアを単なる街ではなく、物語の器にしている。
通り過ぎた街を、もう一度歩く
拠点ではなく、主人公だった国
初めてFF9を遊んだとき、アレクサンドリアは、ただのスタート地点に見えたかもしれない。ショップがあって、宿屋があって、次の目的地へ向かうための、最初の街。
でも、遊び終えてから振り返ると、見え方が変わる。
召喚士一族の五百年の因縁。ガーネットの出生の秘密。母ブラネの崩壊と救済。城下町の壊滅。悲恋劇の円環。物語の重心が、すべてこの国に置かれていた。
アレクサンドリアは、拠点ではなかった。この物語の、もう一人の主人公だった。
花輪が手向けられる女王
大陸を戦火に包んだ女王ブラネの墓に、民が花輪を手向ける。あれだけのことをしても、民は彼女を愛していた。
この、単純な善でも悪でもない陰影が、アレクサンドリアという国の空気そのものだと思う。美しい城下町の下に、五百年の罪と、一人の母の悲劇が沈んでいる。
もし、この街をただ通り過ぎた記憶しかないなら、もう一度歩いてみてほしい。滝の上に立つあの城が、物語の始まりと終わりを、静かに見守っていたことに気づくはず。君の小鳥になりたい、という劇の名前を思い出しながら歩けば、あの石畳が、少し違って見えてくる。
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